メモリアル・ジュエリーの歴史  -No.1-2-3-4-
 
 毛髪は17世紀より装身具に用いられるようになりました。神秘性、永遠性の象徴であると同時に愛する人との絆でもあり重要な役割を果たしました。
 ヘアー工芸は専門の職人はもちろんのこと家庭の主婦のたしなみとしても、習得され盛んに行われました。リングはその形から永遠を象徴すると考えられており特別 の意味を持っていました。17世紀の結婚指環や愛情の証となる指環が与える荘厳な印象は、18世紀になるとかなり薄れ、バラエティに富んだものとなる18世紀の宝石細工師たちは、愛をモティーフにした指環のデザインに優れた技量 を発揮した。これらの指環は永久の忠誠ではなく、その時々の好意の徴として贈られた。
 愛する人の肖像のミニアチュール(小型の細工画)や毛髪の房をいれたベゼルの裏に頭文字や誓いの言葉を秘した指環も愛情の表現に用いられた。ミニアチュールや髪の房、ギメルまたはシングルの結婚指環、愛を象徴する蔦、勿忘草、ハート握り合う手、名前の頭文字を刻んだ花婿へ贈る指環など、これらのモ ティーフはすべて、小さめで幅の広いベゼルの流行に合わせてデザインを変化させながら19世紀半ばまでつづく。
 日本では古くから愛する人の陰毛をお守り袋の中にいれ肌身はなさず携帯していた。
 

 
勿忘草を彫り、ロケットに頭髪を納めた。赤革のケースに、M.A.の文字が型押しされ、プレートにはマリー・アントワネットの髪を示唆する「王妃の髪」の銘がある。持ち主のM.A.とは、アントワネットの姪で、フランス最後の王ルイ・フィリップの妃マリー・アメリのこと。
フランス/1820年頃
 

 
ペリーと妻ジェーンの髪を納めたブローチ。1928年に遺族から日本へ寄贈された。
東京国立博物館蔵
 

 
ダイヤモンド付きベゼルの裏にいくつかの年号を刻み、11のロケットには子供のものと思われる頭文字が記され、それぞれに頭髪を納めた。 肉親への愛情を表す。
19世紀
 

 
ダイヤモンドで名前の頭文字を装飾した指環。
[A]は頭髪を納めた。
[B]は青のエナメル地、ショルダーもダイヤモンドを使用。
いずれも18世紀
 

 
[A]モスアゲート(苔模様の瑠璃)を模して、木を頭髪で書き、上部にフランス語で「友情の証」と書いた。 フランス/1780年頃
[B]目だけを描いたミニアチュールの指環1782年頃
[C]目だけを描いたミニアチュールの指環1825年頃
 

参考文献
穐葉昭江『ジョージアン&ヴィクトリアンジュエリー』穐葉アンティークジュエリー美術館・1995年
東京都庭園美術館監修『指輪 古代エジプトから20世紀まで』淡交社・2000年
 
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